初仕事
テレビ番組の制作を希望して新潟に来たのだが、初めて配属されたのは本社営業部だった。テレビ局の営業とは何をやるのか全く分からないまま、新社会人としての仕事が始まった。営業としての初仕事は、開局記念スポットのセールスだ。1口10万円で10秒のテレビCMが10本放送されるというもの。1本1万円のテレビCMだ。
「TNNテレビ新潟の開局おめでとうございます。株式会社〇〇 代表取締役社長〇〇」というようなコメントと画像が流れるテレビCMを売るのだ。当時はスライドCMといって、静止画の写真に祝開局と社名や社長名の文字が入る内容である。1口10万円と比較的安価な金額でテレビCMを流せるということで、多くの企業やお店が協賛してくれた。
セールスも単純だったので、初めての営業活動もスムーズに始められた。上司から指示され、新潟市で一番の繁華街の古町通にある店をローラー作戦で売り歩いた。
「こんにちは。この度、新しく開局するテレビ新潟です。開局記念のお得なテレビCMの企画があるのでお話してもよろしいでしょうか?」こんな感じで1軒1軒を訪問し、印刷された企画書を持ってお願いして回るのである。十数年ぶりに新しいテレビ局が開局するということで周囲の期待も高く、初めての営業セールスは順調に進んだ。特に、当時はプロ野球の全盛期。巨人戦の試合が全て視ることができるということで、どこでも喜ばれた。
テレビ新潟の拠点は、新潟県内が新潟市の本社、長岡支社、上越市局(高田)の3つ。県外に東京支社、関西支社(大阪)、中部支局(名古屋)の合計6か所。長岡、上越は車がないと営業活動もままならないが、本社営業部は仮事務所のためまだ営業車もなく、徒歩とタクシーで新潟市内を回った。市内にあった広告代理店の担当も割り振られ、挨拶回りも行った。局の数人の営業マンだけではとても市内全域、下越地区(村上市、新発田市、新津市など)をカバーできないため、多くの代理店が開局記念スポットを始めとしたテレビCMを販売してくれていた。
テレビの営業とは何ぞや?ということも初めて知ることになる。単純に言えば、「コマーシャルを放送する時間を売る」ということ。テレビCMを流せる時間は放送法という法律によって定められているため、1日にTVCMを売れる時間には制限がある。メーカーのように商品を大量に生産して売り上げを何十倍に増やすということができない構造になっている。その分、時間という形のない無限にあるものを売るということで在庫も発生しない。価値ある時間を企業に売って、商品をたくさん売るお手伝いをするのがテレビ局の営業という商売である。
テレビには視聴率という番組の価値を図るバロメーターがあって、視聴率が高ければ高いほど価値のある時間、つまりたくさんの人が視ているということになる。よりたくさんの人が視てくれれば、商品が売れることにもつながるからである。基本的には「1%でいくら」という売り方をしているため、視聴率が高ければ高いほど、売れる商品が増える計算になる。なのでテレビ局は視聴率を高くするためにしのぎを削り、様々な番組を作ってきたのである。
当時はまだパソコンも、インターネットも、スマホもない時代。テレビがお茶の間の真ん中にドカッと座っていて、家族の中心にあった。