坂上

古町

2月から初夏の7月頃までの約半年、本町9番町の仮事務所で働いていた。新潟市の一番の繁華街、古町と通りを1本隔てた場所で、多数の飲食店が連なっているエリアだ。多忙を極め、仕事を終えた営業マンが真っ直ぐ帰るわけがない。当然のごとく、赤提灯の暖簾をくぐる日々となる。大学生の新入社員が大人の世界に足を踏み入れる。

新潟は古くからの港町。横浜、神戸、函館、長崎と並び開港五港のうちの一つでもある。北前船を始め、国内外から多くの人々が行き交った街だ。各地の名産品も集まり、日本海側有数の歓楽街となっていった。古町はその中心である。酒、美味、そして艶な花街、それが古町だ。

新潟市は日本一の大河、信濃川の河口にあり、昔からの低湿地帯である。今は失ってしまったが、東堀に西堀、そこに一番掘、新津屋堀、新堀、広小路堀など、掘割と呼ばれるお堀が交わり、流れていた。堀には柳の並木が揺れ、風情たっぷりの町であった。なので柳都(りゅうと)とも呼ばれている。イタリアのベネチアと同じように、水の都であった。

旧繁華街は碁盤の目のように街が並んでいる。新潟総鎮守の白山神社を上(かみ)にして、古町通、西堀通、東堀通、本町通が縦に真っ直ぐに下(しも)まで通り、鍛冶小路(かじこうじ)、新津屋小路(にいつやこうじ)など、無数の小路(こうじ)が交差している。これらの小路に粋な赤提灯や小料理屋が並び、夜毎に訪れることになる。

2月のある雪の日、寒さに震えながら二人の先輩に連れられ、東堀の小料理屋に入った。ビールでのどを潤した後、ある酒を飲まされた。キンキンに冷えた冷酒だ。それが「ふなぐち菊水一番しぼり」。

衝撃的だった。「こんなに美味い日本酒があったのか」。

学生時代にも登山仲間と居酒屋には通っていたが、安酒ばかりで、本当に美味しい日本酒なぞ飲んだことが無かった。日本酒がこんなに美味しいと思ったのは人生で初めての経験だった。日本酒の美味しさに初めて目覚めた夜となった。

美味しい美味しいとしこたま飲んだが、この酒は生の原酒で、アルコール度数も19度と高いことなど全く知らなかった。完全に酔っ払い、爆睡した。

古町での飲み歩きの歴史が始まった。