サンボア
当時、古町通の8番町に大竹座ビルという雑居ビルがあった。残念ながら今は姿を消してしまったが、飲食店やライブハウス、バーやクラブ、ボーリング場まであり、いわば古町の中心といっても過言ではないビルで、いつも若者達で賑わっていた。
このビルの最上階に、「サンボア」というクラブがあった。ドレスを着たお姉様方がたくさんいる高級クラブだ。グランドキャバレーとは違って、もう少し上品な大人の社交場ともいえる。会社の同僚が一時ハマっていたのだが、自分も興味があって、安月給の身には辛かったが何度か付き合った。
何故かというと、自分が好きだった野球漫画「あぶさん」の中に、実際に「サンボア」のお店が何度か登場していて、実在する店と知ったからだった。「あぶさん」は言わずと知れた新潟市出身の野球漫画の大家、水島新司先生の作品。1973年からビッグコミックオリジナルで連載がスタートし、なんと2014年まで40年以上に渡って連載されたという名作中の名作の野球漫画だ。主人公の景浦安武は新潟出身らしく、大酒飲みの代打屋。酒しぶきでバットを握り、一打席に全てを賭けるという役柄だった。
この主人公の景浦、つまりあぶさんが新潟に帰郷すると、同級生が経営しているこのサンボアに何度か訪れているのだ。漫画の中だけだと思っていたら実際にお店がある。それは中学生からのあぶさんファンとしては入らないわけにはいかない(笑)。サンボアにはこの大竹座ビルのほかに、信濃川沿いに「リバーサイド・サンボア」というもう一軒の店もあった。
水島作品にはドカベン山田太郎の「明訓」高校、「白新」高校など、実名の学校の名前が何度も登場しているが、皆さんもよくご存じであろう。ドカベンは神奈川県が舞台であるが、これは水島先生の新潟への郷土愛溢れるネーミングなのである。残念ながら水島先生は昨年1月、鬼籍に入られたが、名作の数々は「永久に不滅です」。
水島先生もきっと何度かサンボアに行かれたのだと思う。そんな思い出を語れるお店が無くなってしまうことは、古町の賑わいを知っている自分たちにとっては本当に寂しい。閉店間際、サンボアのラストソングはいつも決まって名曲「メリージェーン」。つのだひろの哀愁を帯びた歌声がダンスフロアに響いていた。
I cry my eyes out over you
Long long and lonely night
Ever since you’re gone
My one and only love
Wondering if you were still mine
Oh how I miss you my dear
Gently in my dreams caress your hair
Please remember I’ll wait forever
I love you