鍋茶屋と行形亭②
行形亭(いきなりや)は、300年以上の歴史を誇る料亭だ。ここも滅多に入れる場所ではないのだが、何度かお邪魔している。ここはとにかく敷地が広く、樹齢数百年の黒松や紅葉が素晴らしい。ここも国の登録有形文化財に指定されている老舗料亭である。
最初にお邪魔したのは、やはり鮮魚会社がスポンサーをしている番組取材だった。この時は、古の装束に身を纏った料理人が登場し、材料の魚に一切手を触れず、包丁と長い箸だけで切り分けて盛り付ける「庖丁式(ほうちょうしき)」という儀式の取材だった。日本料理で伝わるものらしいが、初めて見る珍しい儀式だった。
その後、営業部の先輩がここで結婚式を挙げることになり、私も同僚として出席した。豪華な食べきれないほどの日本料理でもてなしていただいた。日本海の幸、そして郷土料理の数々と地酒三昧。湊町・新潟の粋を集めた料理がこれでもかと出て、すっかり酔っぱらってしまった。
料亭には芸妓さんがつきもの。湊町新潟を訪れ、新潟美人の舞や踊りを眺めながら飲む酒は、さぞや多くの殿方を魅了してきただろう。新潟古町の芸妓は、祇園、赤坂、新橋と並び称され、最盛期には400人ほどいたというほど栄えていた。しかし、時代の流れで激減し、その灯が消えかかった時、新潟の政財界の有志が立ち上がり、置屋組合の会社を設立した。初代の社長は当時の県知事が務めたと記憶している。それほど、古町芸妓は花街新潟の文化として認められるものであった。
現在、その流れで柳都(りゅうと)振興株式会社が設立され、古町芸妓の養成や派遣業務を担っている。若い芸妓も育っているようだ。またいつの日か、華やかなりし頃の湊町の情緒を復活させてほしいと心から願っている。